研究資料 1 檜垣喜美輔著 「川根焼堀出シ陶器ニツキテ」
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周桑郡郷土研究彙報』第二号 |
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1930 |
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川根焼に関するもっとも古い調査資料は、昭和5年(1930年)8月20日付けの檜垣喜美輔(号は静堂)氏が『周桑郡郷土研究彙報』第二号で発表された「川根焼堀出シ陶器ニツキテ」です。
(この資料の所蔵場所をご存じの方がいらっしゃいましたら、どうかご一報くださいませ。)
永田政章氏の『川根焼の研究』の中で引用されている箇所を抜き出してみました。
原文は漢字カナ表記ですが、読みづらいので、ひらがなに直させていただきました。
川根焼堀出シ陶器ニツキテ
檜垣静堂
- 一、系統
- 砥部の初代のものに似たものがある。
砥部焼が、かなり成功して後、この地に来り、窯を築いたもの。
- 二、総括
- 種類
- イ、甲染付(普通の茶碗類)
- 不完全な窯で硬いものも焼いたから焼屑が多い。
- ロ、乙染付(萩手のようなもの)
- 火度が弱い。屑が少ない。呉須の色が変わっている。
- ハ、 黄褐色のを掛けたもの(徳利類)
- 極く火度は強い。
- 年代
- 明治初年よりさかのぼり5,60年は続いた。
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- 陶工
- 名のあるものでなかろう。
主として雑記を焼いている。
但し絵付けはなかなか上手な絵師が居たものと見え古雅である。
器物の内定に符号やら文様やらわからぬものが描いてある。
その種類20有余もある。
窯の印でも、作者の銘でもなかろう。
銘ならば高台内に入れる筈。
疑問とする処は天保前後のものとすれば、器物の内部に台跡がある筈がないのであるが、九州の先覚地ではこの様式は300年も前のものとしてある。
これは単に窯が幼稚であった為としてしまう訳にはいくまい。
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後記として添えられている渡部盛義氏の『渡部曰』。
後記 渡部曰
- 田野村字川根窯跡の出土陶片を見せ、檜垣氏を同道して調査したのは1930年の5月下旬であった。
数日後西条の田中大祐氏らも加わり、数人で発掘調査した結果が上記報告書となった。
後柳田国男先生も視察に来られたことがある。
- 窯後は川根の東端、唐津山の山麓傾斜面にある。
- 粗大な煉瓦風の赤い焼土を以て築かれていたが、今はわずかにその跡が推定出来るのみ。
- 長さ約一間版、奥行き一間のものが2窯連続していたものと思われる。
- 「古田焼」とも呼ばれたのは徳田村古田(コタ)に近いから。
「御陣屋焼」とよばれた(共に西園寺源透氏の教示による)のは松山藩代官所の保護奨励の下に焼いたものによるものであろう。
(代官所のあった現在の徳田村御陣屋とは距離もあり、地名上からは全然関係を認められない。)
- この地に窯を開いた理由は不明であるが、付近に適当な陶石を産したに違いない。
- 土地の古老によれば桜樹村楠窪産の石を馬の背で運び、付近の渓流に水車をしかけて砕いていたという。
楠窪は窯跡現場から2里余り隔たって交通はいたって不便な場所ゆえ、同地の陶石で川根の現地に開窯したとは思えぬ。
- 惟うに、これは廃窯前後のことか。
初めは附近に陶石を産したが、掘りつくしたので一時的に楠窪から運んだものか。
- 70歳前後の人(永田注1860年頃生まれ)はうすうす知っている。
末期頃は台所用雑器を主として焼いていた。
- 創始年代を知る手がかりはない。
西園寺源透説では天保頃までさかのぼり得るとのこと。
窯の活動期はわずか4,50年間で、十分発達を遂げないうちに亡んだ。
- 各人所蔵陶磁中「堀出陶器内底にある20有余程の文様」と同じ印のあるものは「本郡唯一の窯」(川根)から出たものである。
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1の「柳田国男先生も視察に来られたことがある。」の一文は、かの民俗学者・柳田国男氏が川根の窯跡まで来られていた事を伝えるものです。
文面から、窯跡調査が行われた昭和5年(1930)5月下旬から、論文が発行された8月20日の間に訪れられた事がわかります。
風俗蒐集でしょうか? 講演でしょうか?
旅の途中にふらっと川根に…、なんてことはないでしょうから、誰かが強引に連れて来られたんでしょうね。
なにか覚え書きでもないかと、柳田国男全集にざっと目を通してみましたが、それらしき記述は一切見つけられませんでした。
「川根焼堀出シ陶器ニツキテ」に対して、後世、いくつかの見解・指摘がなされています。
けれど、この資料がその後の調査・研究の基礎となり、様々なインスピレーションをもたらしたことは確かです。
最低でも、土くれに還りつつあった川根焼を陽の当たる場所に引きずり出してくれたことは、陶工の末裔として非常に感謝しています。
檜垣静堂氏はこの論文発表後も研究を続けられ、補遺的な一文「川根焼第二回ノ調査」を発表されました。
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研究資料 2 檜垣喜美輔著 「川根焼第二回ノ調査」へ